2019.02.10

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毎朝ながめる大きな木がある。裸にされて先を落とされた。いつも朝七時に通勤路からは朝日が木の左後ろにあるから、真っ黒につきささっている。今日見たら、先の方から細い枝が、細かい葉がついていた。夜の九時を過ぎた電車は嫌いだ。酒臭いし悪口が過ぎる。くらい夜中に、明る過ぎる。起きたらコーヒーを飲みたい。ペーパードリップで。穴は一つにして欲しい。湯を注ぐ時間を作らないから悪いのだけれど。北側だし照明が切れるから、本を読もうとしてもそうさせてくれないことが時々あったりして。暗い背景にある印字された黒い文字。卵焼きが口に運ばれようとした時に落ちる。冷えた出汁はシミになった。かじかむ手でキーボードを打つと、指先の爪垢がたまっていることに気が散る。昨日飲みすぎたせいでおなかの調子が悪い。トイレに駆け込むのは決まって午前中だけなんだ。昨日買い替えた付せんは安物だったから、色が鮮やかでしんどいと言われた。くの字型のデスク、隣の人同士の会話の方向が気がかりで、付せんは私の机にしまった。少し割高だけど色の淡いものを窓際の引き出しに入れておく。追いつけない向こうの方に、消えかかった日々の生活。近所の友だちと一緒に乗ったブランコ、一番高いところで飛び降りて、どこまで飛べるか競争していた。今はあの笑顔に向かって、静けさに耐えている。電車のホームに並ぶ。同じ顔触れだけど名前は知らない。いつもこの列の先頭にいる人、金曜日だけはニューバランスのスニーカーじゃなくて、赤いパンプスを履いていた。今日はいない。いつも3階建ての屋根が急なおうちの前で、たむろしている二匹の猫が、見つけるとすり寄ってきて、片方は必ず私のひだり足を左後ろ足で踏んでいく。噛み癖はいつも治らない。もう片方はいつもだるそう。少しついては来るけども、最近は離れると彼らも家の方に帰っていく。レイモンド・カーバーの短編集を仕込んだかばん、取り出して読むことは週に二回ぐらいだけど、いつもけなげに定位置にいる。油汚れのひどい作業着と空になった弁当箱に押しやられる。改札前の向こうから消える海をじっと見ていたあの老人は、また明日もそうやっているんだろう。意味のない別々の私たち、束ねるこの私に向かって、何を問うというのだろう?何を答えるというのだろう?生活様式の鏡のふるまい、こぼれた者たちでくみ上げあられる朝焼け。私の人生は充実している。